3.姿勢の形態と機能
- Yuumi YAMADA
- 2022年5月25日
- 読了時間: 5分
更新日:2023年6月25日
「姿勢」とは、「構え」とも定義され、頭部・体幹・上肢・下肢の相対的位置関係を意味します。
この姿勢については日常生活動作をはじめとして、スポーツや武道、華道や茶道、伝統芸能、禅などさまざまな分野でよいとされている形や動きがあります。
茶人の優雅な立ち振る舞い、武道家の自然体、禅の姿、スポーツ選手の美しいフォームなど、隙のない、無駄のない「姿」です。
ヒトは進化の中で長い年月をかけて現在の姿勢の形態と機能を獲得しました。ここには理にかなったものが多く含まれ、それぞれの分野で先人たちが培った考え方、すなわち、次の動作を考えた、無駄のない、効率的な動作を行えるものが「理想の姿勢」といえるのではないでしょうか。
ヒトの姿勢の形態は、小さな二つの足の上に細い二本の脚を直角に立て、骨盤を支え、骨盤は四足動物の頃に比べ大きな器に形を変えることで、今までお腹と背中で支えていた内臓を今下から支えるよう変化しました。背骨は骨盤の後方からS字状にカーブを作って(S字弯曲)積み上げられ、その上端に頭を乗せ、両腕は肩にぶら下げてます。このように一見してとても不安定ではありますが、一方ではこの形態により多くの機能を得ることになります。
背骨のS字弯曲(頚椎前弯、胸椎後弯、腰椎前弯)によって直接頭の重さを受けるのではなく、頚椎の可動性を大きくして前後、左右の動きやねじれの対応ができる機能を獲得しました。
胸椎は肋骨と一緒に籠をつくって内臓の防御を図り、腰椎は骨盤とともに身体の中心部で重さの支えや動きの中核を担うようになりました。頭部とS字弯曲によって移動の際には前後、左右、上下の動きに対応できるバランス機能を備えました。それは、四足動物では前肢とセンサーの役割を果たしている頭部が連動してバランスをとっていましたが、直立二足歩行によって脚(後肢)にセンサー(頭部)をのせてバランスをとるようになりました。その結果、頭の位置をコントロールするセンサーである目や耳などを駆使して「反射」というシステムを備え、円滑に運動が行える機能を得たことも大きな収穫だったと言えます。また、前肢として使っていた上肢は、身体を支える必要がなくなったので、肩甲帯は自由に動かすことができるよう変化し、手指の動きも精密に動かせるようになり、物をつかむ機能やピアノを弾いたり編み物をしたりといった巧みな動きが可能になりました。下肢では股関節は屈曲-伸展、外転-内転、外旋-内旋の6種類の動きによって、バレエのアチチユードやフィギアスケートのビールマンスピンなど四足動物には出来ないような動きが可能になりました。
膝関節は関節に工夫が施され、膝が伸びて脚がまっすぐ立てられるようになり、衝撃の吸収が果たせるようになりました。足部は骨格が2階建て構造に変化したことと大きな踵を持つことによって衝撃の吸収と身体の支えの安定化が図れるようになりました。
脊椎や骨盤,股関節,膝関節,足部などの機能を考えると、ヒトは四足動物から直立二足歩行への進化によって、それぞれの部分の役割を確立したと言えるでしょう。
姿勢は静的姿勢(立位、坐位、臥位など)と動的姿勢(起き上がり、立ち上がり、しゃがみ込み、歩行など)があります。静的姿勢では、長時間安定してその姿勢を維持することが求められます。そのためには、「足底→脚→骨盤→背骨→頭部」土台から順番に積み上げられていることが大切です。静的姿勢である立位では、足底で身体を支えることになるため、まず足底部の感覚と機能が重要になります。特に重要なのが拇趾と拇趾球を始めとする「喘息部」です。その機能を発揮するためには、膝は伸ばし過ぎるのではなく少し緩んだ余裕が必要です。下肢に上手く上半身をのせるためには、まっすぐな胴体が必要となります。胴体をまっすぐに立てるには、頭部の位置を背骨の真上に乗せることが条件となります。坐位では足底部と臀部で身体を支えるため、足底部と臀部の感覚と機能、特に股関節を屈曲して背骨を支えることになるので、立位と比べて骨盤の機能が重要になります。このような姿勢を考える場合には、一部の修正ではなく全体が関連しあって構成しているということを考慮すべきです。
一方、動的姿勢については効率的な無駄のない動きが求められます。基本的には静的姿勢から動作することになるため、安定した静的姿勢を無駄なく瞬時に「崩して」次の動作につなげることが重要です。
安定した形を崩すためには、下からではなく、「頭部→背骨→骨盤→脚→足底」という具合に上から順番に崩すことが重要になります。臥位からの起き上がりは、頭部を背骨の天辺に乗せるため、頚椎を主とした背骨の柔軟性とそれに伴う腹筋群の働きが必要になります。坐位からの立ち上がりは、臀部と足底部で支えていたものを足底部に移動するため、股関節の「屈曲-伸展機能」と膝関節の伸展、足底部の感覚などが必要になります。立位からのしゃがみ込みは、狭い足底部で支えながら股関節と膝関節の屈曲を行い、胴体と頭部の位置を下げるわけですから、股関節と膝関節の綿密な連動とバランス感覚に微調整が極めて重要です。歩行は、立位から一つの狭い足底部と一本の細い脚の上に身体を乗せ、同時に一方の脚が振り出される動きを左右交互に行います。下肢を「ロコモーション」、上半身を「パッセンジャー」とすると、足底部と股関節でスムーズな動きを作り、身体の比重の中で最も割合の高いパッセンジャーとなる「体幹」をいかに上手く脚の上に乗せことが「理想的な歩行」になると私は考えています。頭部、背骨、骨盤の機能を連動させたスムーズな動きこそが理想的な歩行です。

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