私は令和4年5月末まで、メディカルフィットネスクラブで運動指導を行っていました。
この仕事を始めた30数年前は、フィットネスクラブそのものが少なく、今とはイメージも違い特定の人が利用するものだったように記憶しています。
国の健康づくりに関する施策は、1960~70年代は十分な栄養補給、1980年代は疾病の早期発見早期治療、平均寿命が80歳を超え「アクティブ80ヘルスプラン」の中で積極的な健康づくりとして「運動」の重要性が言われ始めました。また、学童肥満や子どもの糖尿病などの発症が見られるようになり、今まで「成人病」と呼ばれていた疾病を「生活習慣病」と改め、その対策について本格的に取り組みはじめたのが1990年代でした。2000年に入って、「介護保険制度」「健康日本21」「特定健診・特定保健指導」「後期高齢者医療制度」「健康寿命延伸」など、新たな制度や健康づくりに対する取り組みが急ピッチに進められています。
私にとって、ここ20数年間は大変めまぐるしい時でもありました。入職した頃は、健康づくりを目的に運動指導をしていましたが、現在求められていることは、中高年者への生活習慣病や「痛み」に対する運動指導です。生活習慣病の場合、運動指導の内容は科学的研究も進んでいるため、エビデンスに基づいたものを実践し継続していけば、自ずと結果は出ます。トレーナーがやるべきことは、医師のリスク管理のもとで、エビデンスに基づく運動指導を注意深く継続的に進めることだと考えます。
一方、「痛み」に対する運動指導は、痛みという客観的には判断しにくい事柄に対して症状の軽減を目的に運動指導を行うわけですから、実践の積み重ねで進めていくしかありませんでした。運動指導の現場では、「今朝起きてから腰痛があるけど、運動しても大丈夫ですか」「この間まで膝が痛かったけれども、2、3日前から肩が痛い」など訴える方がいます。一般的には「病院で診察を受けてください」と言って運動をやめさせることがよいのかもしれませんが、もしそうなら、私のいた施設では毎週数名は運動をやめさせなければなりません。
「どうにか運動を続ける方法はないか。そのためには、今の痛みを軽減しなければならない。しかし、自分自身で痛みの評価が必要だ」「痛みの軽減=客観的評価の改善がみられればよい。そのためには、その場でできる客観的評価と指導が必要だ」と自問自答しながら試行錯誤の日々が続きました。
それまで、生活習慣病をはじめとする内科系疾患の運動指導こそが中高年者にとって重要であり、痛みに対する運動指導というのは二の次という考えを持っていました。しかし、現在指導している中高年者は、生活習慣病に加え痛みという症状を持っていて、この痛みというハードルを越えない限り運動を継続する意欲の低下、つまり生活習慣病の運動指導につながらないということに気づきました。
結論から言いますと、痛みの原因を探る方法として「姿勢」を見ることが有効な手段だとわかりました。立ち姿や歩行などの動作を観察することで、痛みのある箇所をかばったりすることはもちろん、姿勢や動きの中で原因となる箇所が特定できます。
ところで姿勢について考えるとき、私たち日本人の多くは背すじがまっすぐに伸びていることがよいことで、曲がっていることが悪いことと考えがちです。背骨は曲がったり伸びたりする機能があることを理解すれば、果たして、背すじを伸ばしたまま歩くことはよいことと言えるでしょうか。「背すじは伸ばすもの」と考える背景には、恐らく、学校教育での姿勢指導が考えられます。私も背中を丸めて授業を聞いていると、先生に物差しを背中に当てられて注意された記憶があります。これ自体は、教育効果をあげるという意味では有効であったかもしれませんが、結果として「よい姿勢」というイメージが定着してしまったと言えます。背すじは「伸ばす」ものではなく「伸びるもの」と考えてみてはどうでしょうか。
「よい姿勢」「理想な動き」‥これを目指し「KAZUメソッド 姿勢改善体操」を考案し現在も進化しているところです。皆様も是非一度体験してみてください。

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